バンド活動をやっていると絶対に避けては通れない対バンでのライブ。
色んなバンドのステージを見ていると、普通に演奏が始まるバンドだけでなく、一音目から彼らの世界に引き込まれるバンド、というのを体感したことが誰でもあると思います。
この差は一体何でしょうか。
今回はその理由と最初から自分たちの引き入れる方法、そしてMCへの応用を記載していきます。
1.深夜の泥棒
人間は感覚について、「錯覚する」生き物です。
例えば、高速道路を100km/hで運転していて、一般道へ降りて50km/hになると、すごく遅く感じるということは、免許を持っている方なら誰でも知っています。
同様に、音についての錯覚の事例を紹介します。
満席状態でざわついている居酒屋で、普通より少し声を大きめにして店員を呼んだけれども、声が届いてない状況を想像してみてください。
周りがうるさい中、それ以上の声を出しているのに「大きな音」として認識されていません。
逆に、皆が寝静まった後の深夜の無音状態の闇夜を想像してください。
その中、泥棒が音を立てまいと神経をとがらせて歩いていますが、小石が敷き詰められている庭にうっかり足を踏み入れてしまい、全く無音の、シーンとしている静寂の中「ジャリッ」という音が鳴ってしまった場面。
音量としては小さいですが、すっごく耳につく音に感じます。
では、次にライブの冒頭シーンを思い浮かべてみましょう。
ステージ上が明るくて、客がざわついている中、「一曲目いきまーす」と言って曲に入っていくシーン。
それとはまた別で、会場が暗転して、静かになり、かすかにアーティストが見える薄暗い幻想的な状態から会場内に響くドラムスティックのカウント、そして勢いよく始まる曲。
同じ曲を演奏したとしても、バンドの印象は大きく変わりますよね。
深夜の泥棒については、ホラー映画などによく使われている演出です。
同じ映像系でも、テレビドラマを注意してみると、視聴する人を入り込ませるための「演出」があります。
アングル、フレームの中に入っている人数、遠景や近景、カメラワーク等。
実は「錯覚」という点で見れば、全く同じ曲をやるとしても、ライブの見せ方につながるヒントは多々あります。
2.ただの手拍子練習で変わる空気感
十数年前、高知のライブハウス主催の観客投票型のコンテストにて優勝したバンド(当時筆者は編曲で参加)での練習で、意外と効果のあった練習に「手拍子」があります。
なんだそりゃと思う方も多いと思いますが、やり方は簡単で、バンドメンバーが同時に一発だけ手を叩いてその音のタイミングを「少しの狂いもなく合わせる」練習です。
全員の音が完全にそろうと明らかに音色、音圧が変わります。
ただし、誰か一人でもコンマ数秒のずれが生じた場合、音が明らかに違うのでアウトです。
この時はスカバンドだったので8人の編成でした。
実際にやってみたら分かりますが、4~5人でも「完全に」合わせるのはかなり難しいです。
これを5回連続で決められるようになったら合格、というルールで行います。(ただし、手が痛くなったら無理をせずやめましょう。)
実は「縦の線を正確に合わせる」ということは、バンド練習では何気なくやってるつもりでも、実は非常に難しく、恐ろしいほどの集中力を要します。
この練習でバンドでの曲の入りの一発目への合わせ方への意識が一気に変わり、カウント時の空気が一変しました。
そして、最初の一音の縦の線が確実に合った時の音圧というか、感触も劇的に変わりました。
一発目に縦の線ががっちり合うと、無意識のうちに楽曲へ入り込んでしまっています。これは若かりし頃(?)の筆者も衝撃的でした。
最初から客を乗せてしまう、上手いバンドは無意識でこれができています。
3.MCへの応用
上述した、錯覚と空気感について、MCにも同じことが言えます。曲間のMCとして、
「今日は来てくれて本当にありがとう。感謝してます!」
このセリフを、まずステージが完全に明るい状態で早口でさっと言う場面を想像して下さい。
今度は、逆に、ボーカルが青白い照明のみでステージの後ろからのみ照らされている、言わば月夜の薄明かりに照らされているような状態で、上記のセリフをしっかりと間を開けながら、
「今日は・・・・来てくれて・・・本当に・・・ありがとう。・・・・・・・感謝してます!」
と魂を込めたようにゆっくり言った場合、全然雰囲気が違うのが分かります。
バンドはそれぞれカラーがあると思いますが、大事にしたい空気感や、それを実現する錯覚の技法というものを考えてみてはいかがでしょうか。
4.終わりに
錯覚の技法を取り入れるのに、「客目線のフレームワーク」が非常に大事になります。
ライブに出演するにあたって、「1曲目はこの曲にして、MCして、2曲目と3曲目はつなげて・・・・」というような構成を考えると思います。
この時にバンド目線ではなく自分がお客さんとして自身のバンドを見に来た場合、考えた構成でどう感じるか、集中力が途切れるポイントはあるかなどを「映像的に」シミュレーションし、それに合った照明、しゃべり方、お客さんに伝えたい事を逆算していくと自ずと目指す空気感が分かり、ステージングに必要な技巧が出てくると思います。
もしステージングで悩んでいるバンドの方は自身のバンドの世界に引き込むために最初の1音目を大切にすること、また、「錯覚」や「空気感」について練ってみてはいかがでしょうか?
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